松野泉さん(映画監督)

『さよならも出来ない』場面写真

2.

ーーー『さよならも出来ない』制作の出発点となったワークショップについて教えてください

松野:シネマカレッジ京都ではいろんなコースがあって、俳優コースとか、宣伝配給とか、脚本とか、まぁいろいろ分かれているんですけど、僕らがやってたのは俳優のわりと実践的なコースです。俳優コースは別でキム・セイルさんという方がやられてるコースがあるんですけど、そっちはホントに技術を学ぶみたいな、わりと理論立てて、いわゆるメソッドっぽいことというか。キムさんがやってることがメソッドではないんかも知れないんですけど、そういうことは僕は全然知らないしできないから、僕がわかる範囲の、今まで関わってきた現場とか、自分が映画作ってきて、役者さんに伝えられることの範囲でやれることをやりました。

『さよならも出来ない』のワークショップは2014年にやったんですけど、その前に実は一回ワークショップをやってて。でそんときも短編7本かな?作ったんですけど、それは僕と浅川周さんっていう関西の自主映画やってる監督と二人で講師として入りました。そのときは僕もワークショップとか初めてで何を教えれるかっていうのもわからんくて。俳優の技術を高めるってどういうことなんかってことを探りながらやりました。いろんなとこでやってるワークショップを参考にしながら、エチュードっていう即興でするような訓練があるんですけどそういうことをやったり。シナリオ持ってきてお芝居やって、それに対してこういうところを直してくださいって指示出したり。そういうスタンダードなやり方でワークショップやってて。

それはそれで面白かったんですけど、でも自分が目指しているお芝居はこれじゃないのに、でもやっぱり正解みたいなものを教えなあかんというか、その気持ち悪さがすごくありました。

役柄のキャラクターを伝えるとか、役にある心情をどうやったら演技で表現できるかとか、もうちょっとリアルにやるとか、要は表現の訓練をずっとやってたんですけど。それって何か正解があるとこに近づいていくんですけど、結局それにしかならなくて。自分が思ってる理想を絶対超えられない。いくら習得できたとしてもベストのもんにはなるけど、ベスト以上のなんかこう奇跡みたいなもんは生まれない。そういう感覚がずっとあったんです。

確かに受講生にとっては実感もあるし上手くなったとか、なんか劇やってる空間が面白くなったとかっていう実感はあるんですけど。僕自身のモチベーションとしてはなんか面白くないなっていうのがあって。

そう思ってたときにちょうど『ハッピーアワー』の現場入って、そこでは技術を高めるといったこととは全く別のことをやってたんです。濱口竜介監督のある種の役者さんとの関わり方なんですけどそれは、すごい一言で簡単に言ってしまうと、僕の中ではですけど、奇跡を起こすためにいかに準備をするか、みたいな。そういうことを延々やってるなっていう感覚が僕の中にありました。それがどんな内容やったかっていうのは濱口さん本(*『カメラの前で演じること』左右社)を出してるんで読んでいただきたいんですけど。

まぁおんなじことは僕はできないけど、でも漠然とした形で予期せぬ何か奇跡みたいなものを起こすっていうのは僕もずっと映画やってきて、自分たちスタッフも予想だにしなかった瞬間は画に映るってことの大事さというか、むしろそれだけが大事なんじゃないかくらいの気持ちがあったので。

いくら感情的なやりとりで、迫真の演技を役者さんがやってもなんかそこに、そのときにしか起こり得ない、必然性というか驚きみたいなものがないとやっぱり面白くないっていうのがあるんです。それはどうやったら生まれるのかっていうのはもうホント分からないんですけど。でもそのヒントは『ハッピーアワー』でもらったから。『さよならも出来ない』ではそれを目指す方向に行きたいなっていうのはありました。で今回のワークショップやるときはガラっと変わって技術論はまるっきり外して、もしかしたらこれ参加してる人にとってはかなりリスキーというか、例えば自分の表現を追求したりとか、面白い演技したいとか、オーディションに受かるようなお芝居をしたいみたいな、そういう感じで来る人にとってはすごいしんどいワークショップになるかもなって思いながらやりました。

 

ーーーいわゆる技術を高めるワークショップにならないことは伝えなかったのですか?

松野:最初にイントロダクションというか、ワークショップのために作ったパンフレットやHPとかには、僕が思ってること、技術論ではなくてっていう話は一応書いたんですけど。ただでも言葉で全部説明できることではないんで、それが伝わってるかどうか分からないまま始まりました。基本的にはホント僕も探り探りで、やっぱり受講生で来てる人の中には演技経験がある程度ある人がいたりして、自分のお芝居の質を高めたいみたいな感覚の人もやっぱりいたんで、そういう人との接点も探りながら。でもやっぱ今回はこういうものをやりたいっていうものを誇示しつつ。

でまぁワークショップで何をやったかというと、全体的にすごいざっくり言うと、自分一人でお芝居をしないってことでした。誰か必ず一緒にお芝居する相手がいると。その人に興味をもって、その人のことを知りたいって思ったり自分を知ってほしいって思うような感情が生まれるときが、なんかその人たちにとって素敵な瞬間だっていう風に思えるようなことを延々やってたというか。それは別にそういう風にしてくださいって言っても絶対そういう風にはならないんで。なるべくその瞬間を目指して色々やるっていうか。

 

ーーー参加者たちはそういった雰囲気の中で困惑されなかったですか?

松野:困惑してましたね。実は紆余曲折があって。ワークショップは毎週日曜日にやってたんですけど一回終わるごとに受講生にアンケートをとりました。気に入らないこととか、分からんこととか、腹たつこととか、なんでもいいからとにかく文章を書いてくれと。それを受けて僕が個人的に返すか、みんなに知ってもらった方がいいと思うことは、もちろん匿名なんですけど、僕がみんなの前で答えるっていうのを毎週やりました。

最初の頃は、別に誰がってことじゃないから言ってもいいと思うんですけど、ひどいこと書いてくる人も結構いて(笑)。みんなやっぱり自分を表現したいっていうか。お芝居したい人って自分が自分がっていう人多いんですよ。良い悪いじゃなくて、それはある種お芝居にとってすごいいいことなんですけど。今回僕がやろうとしてたのはなるべくそうじゃなくて人を尊重しましょうってことやったから。逆にそういうのが最初にたくさんきたから、僕的には良かったんですけど。本当にまぁ、他の人のお芝居に全く興味が持てないとか、そういうのもあったし。僕のやってることに対しても意図がわからないって話もあったし。率直に書いてくれって言ったら、みんな率直に返してきてくれた(笑)。

 

ーーーそれは嬉しいですね!

松野:僕もそれに対して一個一個考えながら、次のときになるべく答えられるようにと。でも僕自身もそれに対して明確な言葉として言える答えがあるかといったらそうではなくて。はっきり言うと漠然とした奇跡起こすってことを自分の中に抱えながらいかにそこに近づけるかみたいなことでやってたんで。毎回それはもう探り探りやったんですけど、やっていくうちに嬉しかったのは、最初は私はこうなのに他人の人はこうじゃない、みたいな意見がすごくあったんすけど。だんだん、やっててここが難しいみたいな話が出てきたり、他の人がどうってよりかは、自分はこう思いましたってことが増えてきたりとか。あの人のこういうときがすごい良かったですって言う人が出てきたりとか。みんな他の人に興味が向かってる意見が出てきて。もちろん一緒に時間過ごしてきてるから、そういうのももちろんあります。やってきた内容が影響したってこと以上にみんなの人間関係ができてきたっていうのはあるんですけど。

 

ーーー近年ワークショップから作られる映画が増えているように思うのですが実感としてはいかがでしょうか

松野:めちゃくちゃありますよ。もちろん考えるところもあるし…。正直ある種の抵抗もあったりして。抵抗というか自分の中でやっぱりこの作品作る前までは、ワークショップって受けるためにお金払って来る人たちを利用して自分の作品作るみたいな、どっかでそういう感覚というか。そういう見方もできるわけじゃないですか。そういう関係になると嫌やなっていうのはすごいありました。

しかもはっきり言ってワークショップで映画作って公開するって、監督にとっては全く金銭的な利益にはならないですし。でもまぁ僕らみたいなちっさなところでやってる人にとって作品を作るってことは今すごい難しいことで。

名のある監督も今ワークショップで映画撮ったりします。そういう人たちがなんでワークショップかって言ったら結局やっぱり、いわゆるメジャーで撮る映画にも予算が取れないっていうのはあるし。メジャーで映画を撮ってるような人たちからすれば、ワークショップの方が制約がなくて自由にできるとかって、そういう部分はもちろんあるんでしょうけど。僕らちっちゃい映画しか撮ってない人間からしたら、本当にチャンスがなくて、こういうワークショップっていうもので映画撮るっていうのもすごい貴重で一つのチャンスとして捉えてるんですけど。どっかでまぁ、ちゃんと予算がついて、出演者もいわゆるオーディーションをやるっていうのをやりたい。

 

ーーーなるほど。ワークショップだと出演者を選べないですもんね

松野:正直言ってその苦しさもあるし。だから本当は自由な環境でやりたいっていう気持ちがあるんですけど、なかなか予算を取るって難しいから。でも今回僕のやつは、諸々の事情はそうなんですけど、でもなんかワークショップで来た選べない人たちやけど、その人たちやからこそできる脚本もあるし、できる映画もあるんちゃうかなって信じてやってみようと思ったんです。

この一つ前のワークショップで作った短編は、おんなじ感覚でやってしまいました。その要はオーディションで役者選ぶような、自主映画作るときと同じような感覚でやって。ただ役者はもちろん選べないんだけど、でも自分が書くシナリオになんとか則ったキャラクターを持っていってやるみたいな。そういうやり方がしんどかったので、今回はワークショップって制約があるからこそできるものをちょっと考えてやらないと、ワークショップでやる意味ないなってのがありました。

 

ーーーワークショップに頼らざるを得ない経済的な状況があるのですね。一般的な映画は企画の後に役者が招集されますが、ワークショップでは企画の前に役者との時間がたっぷりとあります。これは作品に良い影響をもたらす気がします

松野:それがすごいあって。一つ前のワークショップのときは僕があんまそれをわかってなくて。作品を作るっていうこととは別に、役者さんをスキルアップさせて、そのスキルアップした役者さんたちとその後一緒に作品作りましょうみたいな、そういう感覚でワークショップやったんですけど。今回の『さよならも出来ない』やるときはワークショップの期間自体が作品を作る期間っていう感じでやりました。それは『ハッピーアワー』の影響がすごいあったんですけど、そういうことはワークショップしかできないんですよね。商業の映画だと役者さんと会った次の日にその本番のシーンをするみたいな、そういうことしかできないんで。だからそういうことじゃなくて長い期間かけて、役者さんとコミュニケーションとって、一つの作品撮る、ある種贅沢な撮影の仕方というか。そういう感覚で『さよならも出来ない』はやれました。

 

ーーー今後もワークショップで映画を作ると思いますか

松野:ワークショップで映画を撮るかというと、なんとも言えないところがあって。これは難しいんですけど。役者さんと長い時間かけて映画を撮るってことは絶対必要なことやなって思ったんで、そういう作業はたぶん今後もやっていくと思うんですけど。今回すごいいい時間やったけど、同じように、例えば言い方悪いですけど、僕が先生で役者が生徒みたいな関係でお金とって、ワークショップの期間があって、その先に映画つくるみたいなことに対しての、その関係の不自然さが僕の中ではまだあって。それが必ずしも悪いことじゃないと思うし、否定するわけでもないんやけど、またこういう形でワークショップやるって話があったときに同じようにやるかって言ったら今はなんとも言えない。全然別でいわゆる普通の作り方というか予算が出て映画作れるってなったら、僕はやっぱり予算ある方を選ぶかなって気はするんですよね。ただまぁ役者さんとコミュニケーション取りたいっていう気持ちがあるから、もちろん準備期間は必要やなって思う、そういう自分の感覚の違いはあるけど。ワークショップっていうものを素晴らしい、絶対これからもこれでやりたいってものとして思ってるかと言うとそうでもありません。

 

ーーー『さよならも出来ない』は「関係性」を描いていました。このテーマはどこから来ましたか

松野:これもワークショップで最終的な目標を考えたときに、自然にそこに焦点がいったってのはあるんですけど。やっぱなんか、こう自分の価値観とかを人に押し付けるとか、自分の価値観の中に閉じちゃうとか、そういうことに対する問題意識があって。人と人との間に生まれるもんの方がずっと面白いと思ってて、それをやりたいなってのと。

あと言い方難しいですけど、こうやってたくさんの人たちがワークショップで集まってやるってときに、例えばすごい誰かのキャラクターが立ってて、その人ひとりが魅力的に見える物語をやったときに、周りの他の出演者のモチベーションってどっかで僕の中で考えてて。それはもしかしたらワークショップっていう特殊な環境やったからそうならざるを得なかったっていうのもどっかであるんですけど。その関係性というテーマを自分がすごく意図して確信があってやったっていうよりは、ワークショップっていう環境の中で最善のものを作るために、そういうテーマを選んだっていうのはあるんかなって気はしますね。

あと前提としてそれぞれの人が普段のその人たちよりも魅力的に見えたり、見たことのない瞬間が生まれるっていうか、そういうものを見せたいって思ったときに、その人自身の表現では絶対そこに行けないなっていうのがあったんで。じゃあどうやったらいいかってなったら、やっぱり関係性で見せるしかないというか。裏を言うとあんま面白くないんですけど、それはありましたね。はっきり言ってモチベーションの違いもあったし。

 

ーーー端役であることの不満ということでしょうか

松野:そういう意味もあるし。ワークショップに参加している人自体が自分は映画に出たいって人もいれば、ある種趣味の延長で、なんとなく楽しそうみたいな感じで来ている人もいるんですよ。別に俳優になりたいって欲求がある人ばっかりでないし、そういう意味でのモチベーションの違いがあるから。でも作品にするってなるとそんなことも言ってられないじゃないですか。もう僕からしたら一人でもやる気がない人がいたらはっきり言って終わりなわけで。作品としては、それやったらそういう人を切り捨てちゃえばいいって話なのかもしれないですけど、今回はそういうやり方ではやりたくなかったし、ある種全員が!って気持ちはあったんで。結構そういう意味でしんどかったってのがあって、さっきのワークショップの話に戻りますけど。

 

ーーー腑に落ちました(笑)

 

3につづく

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